米国の大学の寮に住んで知ったタバコと酒と薬物問題

(以下の随筆は米国へ留学したある女子大生が書いたもの。)


日本禁酒同盟
 


 私は交換留学生として米国北西部のW州立大学に1年半、在籍した。そこで目にし た学生生活のこと、とくに酒や薬物のことを思い出すままに書いてみる。
 
  私が住んだのは大学のキャンパス内にある国際学生寮で、世界各国から来ていた留 学生が約九〇人住んでいた。二人部屋と一人部屋によって家賃が違っていた。町のア パートに住む留学生のほうが多かったが、私は英語や比較文化学を体験的にも勉強し たかったので、この学生寮に住むことにした。そしていつも英語が必要な、二人部屋 を希望した。
 
 日本にいる時は、米国での犯罪がよく報道されていたので、留学生活の最初は泥棒 や強盗などを恐れて、身構えて生活していた。しかし実際に生活してみると、場所が いなかのせいか、たむろする浮浪者もいず、安全な感じであった。また寮生活をして いるうちに、日本での学生生活と違う部分や、留学生活の初期には気づかなかった部 分がだんだん見えてきた。それがタバコや酒やドラッグにまつわることだった。
 
 タバコは禁煙区域がはっきり決められていた。吸う人を見かけることは日本より少 ないように感じた。飲酒についても表面上は厳しかった。たとえば、スーパーなどで 酒を買うにはIDカードを見せなければ買えなかった。居酒屋に入るにしても、入口 にIDカードを調べる人が必ず一人はいた。
 
 中南米から来ていた最初のルームメイトは一九歳で、ある夜、パーティで深酔いし て病院に運ばれた。このような場合には、カウンセリングを受けることが、大学で義 務づけられおり、再度おなじことを繰り返すと退学ということになっていた。彼女は 実際には深酔いして再度病院に運ばれた。退学を恐れた彼女は、言い訳の準備を一生 懸命していた。
 
 二人目のルームメイトはアルコール依存症らしい娘だった。人柄は大変いいのだけ ど、部屋には一ガロンの安ワインが常時おいてあって、その量は目に明らかなほど日 に日に減っていっていくのがわかった。彼女は一七〇センチ位の長身で、お腹がボコ ンと出ていた。体重は九〇キロ位はあったと思う。目鼻だちはとても綺麗だった。彼 女は二一歳未満のため、居酒屋には入れなかった。この規制は厳格に守られていた。 そこで彼女は二一歳以上の友達に、ワインをいつも買ってきて貰っていた。
 
 彼女は部屋でパーティーを開くのが好きだった。ある日、私が図書館から帰ると、 六畳くらいの彼女の部屋の中に、彼女の仲間が二〇人くらい詰まっていた。びっくり しつつも私が自分の部屋に入ろうと右往左往していると、その仲間が気付いて「イエ −、A子!」なんて歓声で迎えられた。床はもちろん、机の上、窓枠、とにかくあり とあらゆる場所に、人がぎゅうぎゅう詰めになっていた。呆れてしまった私は怒る気 も失せてしまったのをおぼえている。
 
 彼女は酒だけではなく、ドラッグもやっていた。詳しいことは分からなかったけれ ど、マリファナは勿論、マッシュルームやスピードとよばれるものをやっていたこと は知っている。たまに私の部屋にも、お茶を焼いたような臭いがして、「あっマリフ ァナをやっているな」と分かったりした。そんなときは、二、三人が集まって大声で 笑っていたりするのが聞こえた。
 
 一番いやだなーと思ったのは、そのマリファナの臭いをインセンス(お香)で消し て、一人で窓のあたりで吸っていることだった。別に、そんなことをしていたからと いって、私がルームメイトをチクッたりしないのに……そんなときは、私がいたら迷 惑なんだろうなと、勝手に気をきかせて図書館へ向かったものだ。
 
 そんな生活にこりて、次の学期からは二人部屋は止めて、一人部屋を希望した。運 良く一人部屋を獲得した私だったが、実は運悪く、寮で一番遊び好きの男の人の部屋 のとなりになってしまった。この部屋を選択したのは自分自身だけど、彼が隣だとは うかつにもチェックしていなかったのだ。長身で映画俳優のようにハンサムで愛想の いい彼だが、彼の生活の危なさには、ハタで見ていてもハラハラした。
 
 金曜日の午後になると、私の部屋のCDが聞こえないほどのボリュームで、彼のC Dの音楽が鳴り、彼の部屋には大勢の友達がつめかけてくる。歌ったり、時には叫ん だりしているの聞こえる。ダイナミックなのだ。これは、こそこそと窓の近くでマリ ファナを吸って笑っているようなものではない。
 
 ある時、物凄くはしゃぎ声がすると思ったら、彼らは部屋に子供用プールを(膨ら ますタイプ)置いて、その中につかって酒を飲んで騒いでいた。彼の部屋も六畳ほど の広さである。そして最後に、彼らはそのプールに溜めた水を、彼の部屋の窓からバ ケツで、三階より捨てた。彼の部屋の真下に住んでいる男の子は、大変まじめなイス ラエル人だった。さぞかしびっくりしたとだろう。これには、私も参ってしまって、 開いた口がふさがらなかった。
 
 こんなことを書くと、寮には不真面目な学生ばかりがいたような印象を与えるが、 実際にはモルモン教徒や敬虔なキリスト教徒もいて、ガンとして居酒屋へのさそいに のらず、パーティでも一滴も酒を口にしない学生もいた。食事の前にはお祈りをして いた。酒でもドラッグでも、やる人はやる、やらない人はやらないし、やる人はやら ない人を誘いもしないのだった。そういうところでも個人主義がゆきわたっていると 感じさせられた。自分はそんな中で、ほどほどに楽しんで、外国人と日本人とを比較 したりしながら、異国の様々な文化を見ることができたように思う。
 

 

  

一般財団法人 日本禁酒同盟
Japan Temperance Union