「酩酊笑話集」
『ロシアのユーモア』 副題「政治と生活を嗤った300年、川崎浹(トオル)著、講談社選書メチエ、1999年。
○=禁酒令の効果=
五四歳のゴルバチョフが党書記長に就任したときのモスクワの雰囲気を私はよくおぼえている。人びとは新書記長の「若さ」への期待なかばにして、なおロシア人の慣用句「ようし、見てやろう」という慎重な
態度を崩さなかった。
ゴルバチョフがまっさきにとりあげた政策は規律と禁酒令たった。そのころはまだ壁に耳ありで、乗り合わせたタクシーの運転手ぐらいにしか世論調査はでぎなかっ
た。ドライバーは職場の規律が必要だから禁酒政策はいいと答えた。ビール好きの私の友人(日本人)はやぼな指令だと嗤った。さまざまな反応がみられたが、世論の一端をアネクドートがあらわしている。
一九八五年、ゴルバチョフのひきいる代表団が工場を視察した。部品を削っている旋盤工にち
かづぎ、ゴルバチョフが尋ねた。
「私には興味があるものでね。あなたは働くことができますか。
もし、例えばですよ、ウォトカを1瓶のんでいたら」
「できるのじゃないでしょうか」
「それじゃ、2瓶では?」
「できるのじゃないでしょうか」
「それじゃ、3瓶では?」
「どうしてまた、ミハイル・セルゲビチ、そんなに私にしつこくなさるのですか?
ごらんなさい、ちゃんと働いているじゃありませんか」
つぎは官民ともに、禁酒令があまり効を奏していないことについてのアネクドート。
禁酒令を破ってウォトカで酔っぱらったイワンが、赤の広場をふらふらしていて、警官に拘束
され、きびしく問いつめられた。心配した友人が、出てきたイワンに聞くと、
「べつに、ウォトカをどこで入手したかしつこく聞かれてたんだ」
(中略)ゴルバチョフはまもなく有名なペレストロイカ(建て直し)という単語を世界にひろめる。どこかの孫娘がお婆ちゃんに聞いた。
「お婆ちゃん、ペレストロイカって、だれが思いついたの?
共産主義者? それとも学者?」
「わたしは共産主義者だと思うよ」
「どうして?」
「だって学者は最初に動物実験をおこなうからね」
診療実話の部
○=うがい=
医師・・・・・「お酒はのみますか?」
患者さん・・「はい、かぜの予防にと思って、うがい程度に。」
医師・・・・・「アルコール消毒ですか。じゃあ、うがいしてから吐き出すん
ですか?」
患者さん・・「いいえ、飲み込みます。ついでに胃の消毒もしようと思って。」
○=産後の酒=
医師・・・・・・・「お酒は飲みますか?」
女性の患者さん・「お産で止めていました。」
医師・・・・・・「もうお産はすんだんでしょう。今は飲んでいますか?」
女性の患者さん・「飲んでいます。妊娠中はいけないということは、お産
がすめばいいっていうことでしょう。」
○=飲まないが、毎日泥酔=
医師・・・・・「酒は飲みますか?」
患者さん・・「私は自宅では飲まないことにしています。」
医師・・・・・「じゃあ、家の外では飲むんですか?」
患者さん・・「はい。営業の仕事で飲まざるを得ないんです。」
医師・・・・・「営業って、週に何日あるんですか?」
患者さん・・「ほとんど毎日ですね。」
医師・・・・・「じゃあ毎日、泥酔って訳ですね。」
患者さん・・「まあそういうことになります。」
○=「ちょっとが大量」=
医師・・・・・「お酒はどのくらい飲むんですか。」
患者さん・・「ちょっとだけです。」
医師・・・・・「酒豪に見えますが、ちょっとだけでは飲んだ気がしないで
しょう。」
患者さん・・「まあ、そうですね」
医師・・・・・「晩酌を、多く飲むときは日本酒なら、どのくらいですか?」
患者さん・・「まあ、2、3合くらいですね。」
医師・・・・・「友達が来たり、明日は休みなんていうときは、一升くらいは
軽いでしょう。」
患者さん・・「一升なんてとても。7、8合くらいなら。」
私・・・・・「最高に飲んだら、どのくらい飲めますか。」
医師さん・・「そうですね。腰をすえて飲み始めたら、飲んだ量なんか
覚えてられません。」
○=節水=
妻がコンビニで買った弁当とおかずをそのまま出す。
夫・・・「皿に移して出したらどうだ。」
妻・・・「食べた後、そのまま捨てられて、洗い水が節約できるのよ。節水
対策なのよ。」
食事が終わって、夫は仕事に行くため、玄関を出る。しかし忘れ物を
して家にもどると、妻が一升瓶でラッパ飲みをしている。
夫・・・「何をしているんだ。ラッパ飲みはみっともないぞ。」
妻・・・「トックリやサカズキを洗わなくていいの。これも節水対策よ。」
○=サカズキの大きさ=
医師・・・・・「近頃はどのくらい飲んでいますか。」
患者さん・・「まあ、日本酒なら2合くらいでしょうか。」
医師・・・・・「お宅の1合マスには3合は入るんではないですか?」
患者さん・・「いやいや、それほどは。」
○=休肝日=
医師・・・・・「近頃はどのくらい飲んでいますか。」
患者さん・・「休肝日を週2日とっていますから大丈夫です。」
医師・・・・・「休肝日の前の日は余計に飲むんではないですか?」
患者さん・・「まあそうですね。」
医師・・・・・「休肝日の次の日はどうですか?」
患者さん・・「やはり多くなりますね。」
医師・・・・・「ならせば毎日飲むのと変わりないですね。」
患者さん・・「そういうことになりますね。」
創作笑話・ダジャレの部
○=チドリ足=
浜辺で酒を飲んで酔っぱらった男性。飛んできた鳥が肩に止まったので、鳥に声をかけた。
「何でおれのところになれなれしく近寄って来るんだ?」
「おまえさんの歩き方が、我々の歩き方に似ているから、つい同族だと思っ
たのさ」───と、チドリが答えました。
○=キリンビールの名前の由来=
「キリンビールがなぜ商標をキリンにしているか分かりますか?」
「のどごしが長くてビールを味わうのに適しているからです。」
○=ニッカウィスキーの名前の由来=
医師・・・・・「ウィスキーはどの程度飲みますか?」
患者さん・・「少量なら健康にいいというので、毎日飲んでいます。」
医師・・「じゃ日課として飲んでいるんだ。ニッカウィスキーですね。」
○=響(ヒビキ)=
医師・・・・・「お酒はどの程度飲みますか?」
患者さん・・「私は値段が高い銘柄を少しだけ飲む主義です。」
医師・・・・・「何という銘柄を飲むんですか?」
患者さん・・「ウィスキーならヒビキですね。」
医師・・・・・「なるほど。しかし多く飲めば、サイフに響くわけですね。」
○=焼酎の名前の由来=
「焼酎のことを何でショウチュウって言うか知っていますか?」
「酒をショッチュウのむ人たちがのむからです。」
(初恋;しょっちゅう電話をかける。熱愛;しょちゅうキスをする。失恋;焼酎を飲む。)
○=痔の原因=
「ビールをのむと痔が悪くなるんです。」
「痔ビールですね。」
○=杯の別字と読み方=
酒好きの人は「酒好」と書き、サケズキと読みます。
○=お墓まいり=
妻「お前さんは酒が好きだったから、ほら、酒を墓石にかけてあげるよ」といってワンカップを墓石にそそぐ。
死後、アリになって墓石の上をはっていた夫、酒におぼれそうになって、「ああ、生前もこんなふうにあびるほど酒を飲みたかった。」
○=飲んだ量=
子ども「日本人はビールをドーム5杯も飲むんだって。」
おばあちゃん「ちゃんとドームとやらを洗って使ってんだろうね。」
江戸の酩酊笑話
(『江戸の笑い話』(高野澄編訳、人文書院、1995)からの引用です。)
○=禁酒=
「なんだ、お前は禁酒したはずだが・・・」
「願を立てたから1年の禁酒をしたが、1年を2年にして、夜は飲ん
でいいことにした」
「いっそのこと3年にして、昼も夜も呑んだほうがいい」
○=引き算=
大酒呑みの男に親戚が意見をするが、一向に聴かない。あるとき、ベロベロに酔って、ゲロゲロとやった。親戚の者、鳥の肝をゲロゲロに混ぜておいて、「言わんことじゃあない。人間というものは五臓そろって生きられるのに、お前は一臓の肝を吐いて、四臓しかのこっていない。死んでしまう。酒を止めよ」
「たいしたことはない。唐の国には三蔵の法師がおられた。それに比べりゃ、俺にはまだ四臓もある」
○=もう一つの臓物小話=
ある男、ことに酔ってから女色に近づくのを好む。ある人、これを戒めて、
「ひどく酔ってから房事を行うと、五臓がひっくり返る。これは大変体に毒ですよ!」
と言うと、
「いやぼくは大丈夫だ。ぼくはいつも二度行うから。」
○=地酒=
「お前と二人で酒をつくろう」
「材料はどうする」
「お前が米、おれが水を出す」
「酒が出来たら、どうやって分ける?」
「わかりきったことを、聞くな。お前は米の粕(カス)、おれは水の
粕をとる」
○=杯の思い出=
友達のところで、酒になる。
出された杯が小型なのを見て、急に泣き出す。
「オヤ。何が悲しくて、そんなに泣きます?」
「私の親父が死んだのは、病のためではございません。ちょうど今日のように、知り合いの家でお酒を呼ばれ、小さな杯をいっしょに呑みこんで、息をつまらせて亡くなりました。それを思うと、悲しくて、もう・・・」
○=温泉=
瓢箪に酒をいれて、草刈りにいく。
池の端に温泉がブクブクと湧いているから、瓢箪を入れて、澗をつける。
ひと仕事かたづき、澗の具合をみようとしたら、瓢箪の口があいて、酒はカラッポ。
思わず、池の水に指をつけて、舐めた。
中国のジョーク集
(『笑話三昧』(丁秀山著、東方書店、1992)から。)
○=酒好き=
酒好きの男、ある晩、夢の中で、よい酒を手に入れ、燗ををつけて飲もうとしたところで目が覚めてしまった。
そこで大いに後悔して、
「ひやで飲めばよかった!」
○=切れ者=
ケチな主人、召使いに酒を買いに行かせ得るのに、金を渡さなかった。召使いが、
「旦那様、お金がないのにどうやって酒を買えばいいのでしょうか?」
と尋ねた。主人が、
「金を持って酒を買いに行くのなら、誰にでもできる。金を使わず酒を手に入れてこそ、切れ者というものだ。」
しばらくして、召使いは空っぽの瓶をぶら下げて帰って来た。主人は大いに怒り、
「お前はわしに何を飲ませるつもりだ?」と叱った。召使いは落ち着き払って、答えた。
「酒の入っている瓶から酒を飲むなら、誰にでもできます。空っぽの瓶から酒を飲む、これが本当のすご腕というものです。」
酩酊川柳
(『平成サラリーマン川柳傑作選(9回裏)』(選者:山藤章二、尾藤三柳、第一生命、講談社、1999)からの引用です。)
日本禁酒同盟のホームページ